歯科医院における新人スタッフ(DH、DA)教育の重要性

はじめに

医院に入社したてのDHやDAを、医院の戦力となる組織の一員として加えるためには、新人研修(新入社員研修)が欠かせません。新人研修は、その名の通り新卒社員・中途採用者を含む新入社員向けの研修です。

医院の事務長の中には、「新人研修 内容」「新人研修 方法」などのワード検索で、世の中の情報を収集されている方もいることでしょう。

インターネットで簡単に情報収集できる世の中では、新人研修の実施目的や学習内容、流れ・カリキュラム、実施計画についても、誰もが「理解」はできます。

しかし、具体的な行動計画に落とし込み、行動変容を促す新人研修を実施できている医院は少ないのが現状です。

このコラムでは、世間一般的な新人研修について解説するのではなく、新人をどのように医院で活躍させること・輝かせることができるか、という点に着目していきます。

新人研修とは何か

新人研修には「社会人として必要なスキル・知識の習得」「新人の早期戦力化」といったスキル面の強化と「早期離職の防止」というエンゲージメントを高めるメリットなどがあります。

これまでの新人研修は集合研修で行われることが当たり前でしたが、2020年の新入社員研修はコロナ禍において、オンライン研修、オンラインを活用した個別学習+集合研修の組み合わせなど、それぞれの医院が初めての取り組みを行うことになりました。

今後、withコロナ時代に向けてオンライン研修と集合研修のそれぞれのメリットと特徴を生かした研修プログラムを考えていくことが求められています。

新人研修と同時に、中堅スタッフの研修を実行することも重要です。

言われた通りに仕事を進めるという思考から、中堅スタッフとして今後自部署を引っ張っていく存在になるための思考に変化をしていただきます。

言われたことをこなすだけではなく、新人を一人前に育てていく人財育成の役割を担うのが、中堅スタッフの業務の1つです。

そして部下や後輩を育成していくとなれば、自分がこれまで当たり前に、意識せずに行っていたことや、感覚的に行っていたことを整理し、相手に伝わるように言語化する必要があります。

何故新人研修が必要か

大きく分けると、以下の2点です。

◾︎ 人財の確保

新人研修を行うことで、医院は人財の確保ができます。国内の労働人口は減少傾向にあり、人財の確保がどこの医院も急務とされています。そのため、積極的に新人研修を行うことで離職率を下げる効果を期待できます。優秀な人財を育て長期的に活躍してもらうために、新人研修は欠かせません。

◾︎ 戦力の向上

現在の社会情勢から中途採用の獲得は難しい状況にあるといえるため、医院の戦力を上げるためには新人研修に力を入れる必要があります。新人研修を行うことで、戦力の底上げにもなります。新人は中途採用の人財と違い、医院風土になじみやすい傾向があります。

新人研修における注意点

時代の変化とともに新入社員の考え方は変化しています。

今の新入社員はネット検索ですぐに情報が得られる情報化社会で生きてきており、「すぐに答えがほしい」と考える傾向にあります。

ここで注意したいのが、「知識があること」と「実際にできること」は違うということです。

新入社員はネット検索によって知識を得ただけでも「できる」と思い込んでいる場合があります。

とくにビジネスマナーなどインターネット上に多く出回っている情報を研修で実施する場合は、詳しい説明をする前に新入社員に理解していることをアウトプットさせ、その場で実施してもらうことを推奨します。

新入社員に「知識があるだけではできない」と実体験をもって理解させることで、研修への参加の仕方が変化するためです。

つまり、必要なスキルや知識をつけてもらうだけの研修では、医院の戦力とはなりません。

知識の共有ではなく、意識変化を促すことができる研修をすることが何より重要です。

ですので、「人は人を変えることはできない」ことを前提とし、医院で新人研修を行う予定の人物(事務長やマネージャーなど。以降、トレーナーと言う)が、「人に影響を与えられる人物か」、「人の意識を変えることができる力を持っている人物か」、を考える必要があります。

情報が溢れている世の中においては、研修の価値は「人」でしか判断できず、単に知識や情報を提供するだけのトレーナーであれば、時間やその研修にかかる費用を考えたときに、「行わない方がマシ」という結論にすら至る場合があるのです。

適切な新人研修を行った場合と、新人研修を行わなかった場合

では、トレーナーとして適切な人物が新人研修を行った場合と、新人研修を行わなかった場合を比較したとき、その後どのような変化が出てくるのでしょうか。

1. 医院理念の浸透

医院理念を浸透させることは、新人研修の目的の中でも最も重要です。新入社員が医院の理念に共感できるかどうかは帰属意識の醸成にも影響します。

医院理念とは、医院が大切にしている考え方や価値観・存在意義などを言葉に表したものであり、全スタッフが共有し、医院における行動や意思決定の基準になるものです。

理念は言葉だけの理解ではなく働きながら身につけていくものでもあり、クレドのような明確な行動指針を持って、医院理念に基づいた判断・行動ができているかどうか定期的に振り返りを行うことが重要です。

新人研修を行わなかった場合は、上記思考を新人が自ら持ち合わせることは非常に難しく、新入社員は「医院」ではなく「個人」の判断基準で行動することになるでしょう。

2. 学生から社会人へのマインドセット

新人研修には、学生(気分)から切り替え、社会人としての自覚を持ってもらうための研修も欠かせません。学生と社会人の違いと意識変容、仕事や責任とはなにか、組織で働く意味、ビジネスマナーなど、まさに意識改革が必要です。

スムーズに業務スキルの習得に集中できるよう、電話応対、PCスキル(社内システムの使い方)などを新人研修で時間を取って行う場合もあります。詰め込むだけの知識ではなく、社会人基礎力を身につけるロールプレイなど、行動が伴う実践的な研修が効果的です。

新人研修を行わなかった場合は、個人の生まれ育った環境で得た知識、個人の価値観で物事を判断し、その後の業務スキルの理解や習得も属人的になることが予測されます。

3. 院内での人脈形成

新入社員は入社以前より、どのような同期ができるのか、どのような先輩や上司と一緒に働くのか、困った時にはどこに相談すればいいのかといった不安を抱えています。そうした院内ネットワークの構築とその機会を提供することも新人研修の目的です。

同期との集合研修では、講義だけでなくグループワーク形式で取り組むと一層コミュニケーションが活発となります。このように同期と協力して課題に取り組むことで仲間意識が醸成され、配属部署が別れた後も励まし合い切磋琢磨する良好な関係が築けます。先輩や上司と行うOJT研修はより早く職場に適応する機会にもなります。また、メンタルヘルスやキャリアなどプライベートなことを相談できる担当者と繋ぐことも重要です。

新人研修を行わなかった場合は、先輩や上司からは「今の新人は何を考えているのか分からない」という声が挙がり、新入社員同士でも一部のスタッフのマイナスな発言に大きな影響を受け、モチベーションの低下や早期退職につながる恐れがあります。

4. 院内ルール・コンプライアンスの徹底

新人研修で、スタッフとして守るべきルールや重要な機密情報の漏洩などのトラブルに関する教育は徹底しておかなければなりません。これは医院の危機管理を目的とした重要な内容です。

専門部署に配属されない限り、コンプライアンスを頻繁に学ぶ機会は少ないため、コンプライアンス遵守の意識は新人研修時にしっかり心に留めてもらう必要があります。

同時に医院の独自のルール、報連相などの院内の常識についても理解してもらいます。院内ルールは医院文化によってオリジナリティが多分にあり、若い新入社員には「古臭い」「自分もやらなければいけないのか」というマイナスイメージを持たれる可能性があります。また、機密情報に関しては、「そんなこともいけないのか」といった認識不足も多々あるようです。何故そのルールが存在するのか、理由や背景も含めきちんと理解ができるよう丁寧な対応が必要です。

新人研修を行わなかった場合は、顕在化しなかったとしても、その後の組織運営の中で大きな問題に発展する可能性があるリスクを抱えて経営を営んでいくことになります。医療従事者として何かあってからでは遅い時代、取り返しのつかない状況になる前に、リスク回避をするための施策を実行することは重要でしょう。

まとめ

新人研修を行った場合は、研修後初めて業務理解に入ります。

配属先の業務に必要な知識、技術に関する研修は、実践的なスキルを身に付けることが目的ですのでOJTで強化できるでしょう。

このコラムでは、世間一般的な新人研修のあれこれについて解説するのではなく、新人をどのように医院で活躍させること・輝かせることができるか、という点で述べて参りましたが、そのためには新人の意識改革ができるトレーナーが、新人に気づきを与え、行動計画を立てさせ、実行させることが重要です。

新人研修の有無によって、2年後、3年後、新人がどのように成果を出し、活躍して行くかが決まると言っても過言ではないでしょう。

トレーナーとして相応しい人物が院内にいない場合は、専門家にアウトソーシングすることも、視野に入れる必要があるということです。

この記事を書いた人

高橋 秀幸

株式会社秀實社 代表取締役社長 高橋 秀幸
会社HP

1977年、千葉県で生まれる。日本大学を卒業後、LVMHグループSephoraで店舗運営の基礎を学ぶ。
2010年、株式会社秀實社を設立し、代表取締役社長に就任。戦略的企業ブランディング事業では創業時より、上場企業の幹部創生プロジェクトを担当する。同社は、日本企業としては、14年ぶりにアメリカのナスダック市場に上場を果たす。また、パーソナルブランディング事業では、延べ1万名の全国の経営者・ビジネスパーソンのアイデンティティ確立から、出版・イベント・セミナーまで、多岐にわたるサポートを行う。

2012年、「未来の百年企業」を発足。経済情報誌「未来企業通信」を監修。
2013年、「次代の日本を担う人財」を社会に送り出すことを目指し、次代人財養成塾One-Willを開講。塾頭に就任。名誉塾頭に大竹美喜(アフラック創業者)、運営協力に産経新聞社を迎える。

2018年、プロフェッショナル養成トレーニングOne-Will(対象は社会人)を開講。塾頭に就任。中堅・中小企業の事業内職業能力開発計画・教育訓練体系図の構築支援を開始。
2021年、創業期より支援してきた企業2社がグロース市場(旧マザーズ市場)に上場を果たす。

2022年、2015年より支援してきた企業が売上高869億円を突破する。経営者インタビューサイトLEADERS FILEの運営を開始。編集長に就任。上場企業を中心にESG、SDGsの取り組みを始めとした経営力、対話力の強化を支援。

【著書】
「仕事の教科書」(角川フォレスタ)、他5冊。

【実績業界・業種】
歯科医院/薬局/飲食店/理・美容室/小売/不動産/建設/人材派遣/ITサービス/その他多数

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